熱愛には程遠い、けど。
 女性から預かったダンボールいっぱに詰まったはっさくを苦労してなんとか宮下さんの席まで運び、床の上だと邪魔になるため机の上に置いた。
 女性の訪問や謎の伝言、そして仕事のこと。彼に伝えることはたくさんあったけど、この数日間前任者の重大なミスのせいであちこち忙しく走り回っている宮下さんが自席に戻ってくることはなく、やっと彼が戻ってきたのは定時を迎えるほんの五分前だった。
「なんだこれは!」
 席に戻るなり開口一番の大きなリアクションに思わず笑みが漏れた。
 自分の机の上に置かれた大きなダンボール。しかも中身はすべてはっさく。笑わずにはいられなかった。
「大量の……みかん!?」
「はっさくです」
「え?」
 宮下さんはジャケットを脱いでイスにかけると席に着いた。
「……あ。もしかして古川さん、これ何か知ってる?」
「十日くらい前に、宮下さんに大変お世話になったおばちゃんからです」
「えー? 身に覚えがないよ~」
 宮下さんはヘラヘラと冗談を受け取ったように笑う。でも少しすると「あ」と何かを思い出したかのように呟く。思い出したようだ。
「この間の遅刻……ワケがあったんですね」
「おばちゃん、腰大丈夫そうだった? すごく痛そうにしてたんだ」
「えと……見た感じ大丈夫そうでしたよ。この重たいダンボール持ってここまできたくらいですし」
「そう! よかった!」
 嬉しそうな笑顔。他人のことを真っ先に心配するなんて……宮下さんらしい。
「わざわざ来てくれたのかぁ……。それはそうと。ねぇ、古川さん」
「はい?」
「無事?」
「……えぇっと」
 私に無事かと確認する宮下さんの表情が、何か思い出したくないことを思い出した時のように青ざめている。おそらく、じゃなく確実に身体中をまさぐられたことについての確認だろう。

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