熱愛には程遠い、けど。

04 モヤモヤした気持ちと

 昼休み、昼食を済ませた私は事務所を出て手洗いで化粧を直し自席に戻る途中かかってきた電話に出ていた。
「うんうん、そっか……うん。分かった。また今度ね。うん、うん……仕事、頑張ってね」
 通話を終え携帯をポケットにしまうとがっくりと肩を落とした。
 恋人に今夜会えないかとメールを入れたのが今朝。そして今仕事が立てこんでいて帰りの時間が分からないため会えないという連絡が入った。
 私はふうと小さくため息をついてから立ち止まっていた足を進めた。

 雅史さんからのプロポーズの返事を決め、そのタイミングで彼から会おうと連絡が入った日から二週間が経過していた。
 結局、あの日は仕事に追われる宮下さんを手伝って会うことが出来ず、その後もなかなか二人の予定が合わなくて会えない日が続いている。雅史さんの仕事が忙しくて会えない日が続くことはよくあることだし慣れている。普段ならこのくらいのことで落ち込んだりしたりしないのに、今は……まるで私がプロポーズの返事をするのを、何か見えない力に邪魔されているような気がして気持ちばかりが焦ってすっきりしない。
 早く結婚の意思を伝えてすっきりしたい。モヤモヤした気分から解放されて幸せになりたい。

 その夜、一人暮らしをする自宅で、じっと雅史さんから受け取ったリングケースに入った指輪を眺めていた。そしてそのリングケースをいつもしまっている引き出しの中に大事にしまうと部屋の鍵と財布だけを持って家を出た。
 雅史さんに会いに行こう。私が彼の自宅に行って勝手に待っていればいいだけの話。それなら彼に気を遣わせることも何もないもの。
 私はすぐに運よくタクシーを捕まえると雅史さんの自宅へと向かった。
 ふと冷静になった車中で、いったい私は今から何をしに行くのだろうという疑問が浮かんだけど慌てて振り払う。
 何って、プロポーズの返事をしに行くに決まっているじゃない。
 怖いと思った。こうして日々が過ぎ去る中、どんどんと結婚をしたいという思いが弱くなっていることにふと気づいたのだ。
 やっぱり返事をするのなら今日だ。何が何でも今日、結婚の意思を雅史さんに伝えよう。

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