熱愛には程遠い、けど。

06 スキ、たぶん、好き

 雅史さんが宮下さんの名を呼んだことに加え、
「あれ? 黒木さん? お久しぶりです! こんなところで何して……」
 宮下さんまでもが雅史さんと面識があるようで私は二重の驚きに言葉を失って硬直した。
「彼とは今の前の部署にいた時、同じ部署だったんだ。結構前……杏奈が入社してくる前の話だよ」
 雅史さんは言いながら私にちらりと目を向けて小さく微笑んでから宮下さんが立つ部屋の入口に向かう。
「久しぶりだな。元気だった? 今って……宮下も異動してたんだ」
「はい。今総務にいるんです。それで、そちらの彼女に色々手伝ってもらっていて……」
「そっか、頑張れよ。じゃあ、また」
 簡単な会話だけを交わして雅史さんが立ち去ると、宮下さんが慌てた様子で私のところまで小走りでやってくる。
「も、も、もしかして……古川さんの彼氏って……?」
 雅史さんは私の彼氏だ。でもはっきりとそう言うことが出来ず、とりあえず頷くだけすると一瞬驚きに目を見開いたけどすぐに満面の笑みを浮かべた。
「すごいじゃん……! めちゃくちゃいい人だよ、彼。格好いいし、仕事も出来て多くの人に信頼されて……! 昨日言ってた誤解は解けたんでしょ? ないない、浮気なんかするような人じゃないよぉ。いやぁ、それにしても二人、お似合いだよ。よかったねぇ! おめでとう!!」
「……はい」
 一言、そう答えるのが精いっぱいだった。
 宮下さんに指示された資料を持って、彼のあとについて事務所に戻る。一歩先を歩く彼の背中を見て鼻の奥がツンと痛んだ。
 意識して見たことなかったから今まで気づかなかったけど、広くて大きい男の人の背中。こんなに近くにあるのにすごく遠い。
 ……やば、泣きそう。
 私、本当に宮下さんのことが……好きなのかもしれない。

< 23 / 45 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop