熱愛には程遠い、けど。

07 オトメゴコロ

 七月になった。
 梅雨の晴れ間のムシムシとした湿気に体力を奪われ早くも夏バテ気味の私の今日の昼食はゼリー飲料。
「あれー? 古川さん昼それだけ?」
 昼休みに入り、多くの社員が席を立って部屋を出て行く中で宮下さんに問いかけられる。
「ちょっと……夏バテ気味で」
「あぁ~最近暑いもんねぇ。あまり無理しないようにね」
「はい」
「そういえば古川さんっていつも席でご飯食べてるけど……たまには外出たり食堂行ったりしないの?」
「えぇっと……」
 宮下さんと一緒に仕事をするようになって四か月目にして初めての指摘。働いて三年目にもなるのに一緒にランチ出来るような仲のいい同僚がいない……とか、言い辛い。
「節約です。外はお金かかるし、食堂は混雑して席確保したりするのや食券買うのに並ぶこともあるからその時間がもったいなくて……」
 言っていて苦しい。余計に惨めに思われるんじゃ……。
「なるほど! 確かに」
「……え?」
「僕もたまにはお金と時間の節約しようかな。今日、隣いい?」
「え? も、もちろんです。だって、宮下さんの席だし……」
「じゃあコンビニに行ってこようっと」
 私に気を遣った? それとも素で言っているの?
 分からないけど嫌な気はしない。優しい表情と声に心が和む。
 心臓が跳ね上がるようなドキドキ感じゃないけど、心の奥底でトクトクと揺れてこそばゆい。近頃宮下さんと一緒にいると感じるようなこの胸の高鳴りは今までに経験してきた恋とはまるで違う。
「私も一緒に行っていいですか? その、急に食欲が出て……」
 食欲が出てきたなんて嘘をついて、宮下さんを追うようにして立ち上がったその時だった。
「やーっと会えた。おーい! 宮下ー!!」
 扉が勢いよく開いて中へと入ってきたのは見覚えのある女性。えっと、確か……
「……なっ!? こじっ……!」
 女性は驚きの表情と声を上げる宮下さんの肩に腕を回して首を絞めるように引き寄せるとにっと口角を上げた。
「久しぶり。ちょっといい? 久々だし、一緒にランチしよ」
「はっ、ちょ、ちょっと待っ……! 古川さん、ごめん! ちょっと行ってくるー」
 女性は宮下さんの制止も聞かずに、ズルズルと引きずるようにして強引に宮下さんの手を引いて部屋を出て行ってしまった。
 ポツリと残された私は閉まる扉を見つめて固まっていた。
 ものの数秒で宮下さんが攫われてしまった。見覚えのあるあの彼女は、つい先日宮下さんを訪ねてきていたショートカットのよく似合う美人。
 ……一体誰なの?

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