熱愛には程遠い、けど。
 この日の定時後、部署内での飲み会が会社近くの居酒屋で開かれた。月一で開催され、正社員はほぼ全員参加、私たちのような契約社員や派遣社員も半数以上は出席する賑やかなものだ。
 私は二回に一回程度しか参加しない。だって、女性たちはみな、酔っぱらいのオヤジたちの相手をして、ご機嫌をとって、ゴマすって……そういう光景を目の当たりにして居心地がいいわけがなかったから。
 それでも、参加したときはきちんと笑顔でお酒をついでまわる。ひととおりまわって自分の場所へと戻る。
「宮下さんも、はい。どうぞ」
「ありがとう」
 社内でもそう。宮下さんの隣に戻るとほっとする。
 宮下さんのグラスにビールを注ぐと、宮下さんも私の空いたグラスに半分だけ注いでくれた。
 お疲れさまと声を揃え軽くグラスを当て合う。お酒の飲めない私はグラスに口だけをつけ飲む振りをしながら、ごくごくとビールを美味しそうに飲む宮下さんに目を向ける。
 やばい……こんななんでもないただビールを飲む姿を見ただけでもドキドキしてしまう。
「くぅ~! うまい!」
「……宮下さんお酒好きなんですか?」
「うん、強くないけど」
 じゃあ私も少しだけ、と口をつけただけだったグラスのビールを今度はちゃんと口に含んだ。まずい、苦い。
「あはは! 古川さん、全然美味しそうじゃない!」
「ビールはちょっと……甘いカクテルなら」
「待って。あぁ、あった」
 宮下さんは向かいに座る男性にメニュー表を取ってもらうと私にそれを手渡してくれた。
「何か食べたいものあれば一緒に注文しなよ。ほら、古川さんお昼あまり食べてなかったし」
「はい。さすがにお腹空きました」
 メニューに目を向けながら、お昼の出来ごとを思い出す。
 そういえば、宮下さんを連れ出していったあの女性は誰なんだろう。気になる。
「そういえばお昼……」
 疑問をそのまま口に出したその時だった。
「おーい! 宮下ー!!」
 遠くの席から宮下さんを呼ぶ声。課長以上が固まって座るその島からお呼びがかかったようだ。
「ごめん、ちょっと行ってくるね」
「あ、どうぞどうぞ」
 宮下さんが行ってしまって寂しいな、なんて思いつつ注文を済ませ、自分が注文したカクテルが届いた時だった。

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