Beautiful Life ?
 夜、絵里は部屋でノートパソコンを開いていた。
 まだ返事を出していなかったニューヨークの友人に向けてのメールを打っていた。

「これでよし、と」

 最後に自分の贈った花瓶を使ってくれて嬉しい、ありがとうといった感謝の言葉と、簡単に自分の近況も添えた。
 絵里は自分の作った文章を読み直しながら口元を緩める。文章のほとんどが、リアから受けた新しい恋の報告についての返答だったからだ。まるで十代の頃に戻ったようなメールの内容に照れくささも感じた。
 返事のチェックを終え、送信ボタンを押す前に手が止まった。一言、付け加えたい文章があったからだ。
 「パパは元気?」と。
 絵里はしばらくじっとキーボードを見つめた。部屋の外から「絵里ー。お風呂空いたよー」という裕子の声にはっと我に返る。
 結局文章を付け加えることはせずそのまま送信ボタンを押した。

「立ち止まってなんていられないよね」

 ぼそっと小さく呟くと立ち上がる。
 その場を離れようとするとふと視界に入るパソコンの上に置かれた卓上カレンダー。日付に印がつけられた場所が目に入った。西野と会う約束をしている日だ。

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