Beautiful Life ?
「今俺たち、暗い過去を打ち明け合ったわけだけど俺は小坂さんと傷をなめ合うつもりはないんだ」

 いつの間にか絵里の瞳には今にも零れ落ちそうなほど涙が溜まっていた。

「すべて終わったことだ。振り返るのは今日で最後にしよう。過去は消すことはできないけど、新たな未来を作っていくことはできる。新たな気持ちで一から。小坂さん、あなたと恋愛をしたい」
「でも私、もう昔の私とは違」

 昔とは違ってずいぶんと身も心も汚れてしまっている。そう告げる前に西野が遮る。

「昔小坂さんのこと好きだったけど、今はあの時の気持ちが続いているんじゃなくて、再会してまた新たに今の小坂さんに二度目の恋をしたんだ。そして今、きみのすべてを知った今も気持ちは変わらない」

 「好きだよ」。その言葉と同時に閉じた瞳からは涙が溢れ出した。俯いた絵里の瞳からこぼれ落ちる涙がスカートを濡らす。
 西野はちゃんと今の自分を見て好きだと言ってくれている。すべてを知って、それでも好きだと。
 振り返るのは今日で最後にしよう。新たな気持ちで一から一緒に未来を作っていきたい。
 どの言葉も心に響いて嬉しくて、自分も同じ気持ちであると伝えたい。しかし

「……返事、少しだけ待ってもらえないかな」

 涙を拭う絵里を見ながら、西野は理由を追求することをせず「分かった」と言った。
 返事をする前に、絵里には一人、会っておきたい人物がいた。

「待つよ。一年でも二年でも」

 優しい声色とともに車にエンジンがかかる。「遅くなっちゃったな。帰ろう」と言いハンドルを握る西野を見て、絵里は我慢が出来ず一つだけどうしても伝えておきたいことがあった。

「西野君あのね。私だって……私は三年間、あなたに憧れていたんだよ」

 そしてまた、あの頃と変わらないあなたに再び恋に落ちた。
 今の気持ちはまだ心の中だけに留めておく。ちゃんと気持ちに区切りをつけたら必ず、言葉にして伝えるから。

 動き出す車。
 ハンドルを握る西野の頬は僅かに赤く染まっていた。

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