あなたのヒロインではないけれど
……何が、起きたんだろう?
文字通り頭が真っ白になって、思考という作業ができない。
目を一杯に見開いた私の瞳に――氷上さんの自虐的な笑いが広がった。
「……きみは、なにもわかっていない」
……何が? 何を??
氷上さんが紡ぐ言葉は断片的過ぎて、本意を掴もうとしても掴みきれない。
彼を理解しようと動かない頭を動かそうとする努力の合間に、氷上さんは私の頬を指先で撫でる。
「……わかってくれてない、きみは」
「氷上さ……っ」
全てを言うことを許されず、氷上さんは再びキスをしてきた。全身で押さえつけられ、身体が動かない。
なぜ……
どうして、キスなんてするの?
私を、何とも思ってない癖に。
ゆみ先輩だけを思って、彼女だけしか見てないのに。
ずるい……
あなたのたったひと言だけで、どれだけ私が影響されるか知らないのに。
「……行くな、結実。おれのそばにいてくれ……」
そう寂しそうに懇願されたら……何を犠牲にしたって。絶対離れないと誓うしかないのに。
“男なんてみんな嘘つきよ……最後に泣いて不幸になるのはみんな女なんだから”
仲田さんの忠告も、真湖のアドバイスも、ネイサンさんの警告も。全て無駄にしてしまったんだ、私は。