あなたのヒロインではないけれど




「アイテープ……か。うん、一度覗いてみる。ありがとう、真湖」

「い~え、どういたしまして! それよかさ、マジでメイク憶えたいなら相談に乗るよ?」


真湖は半ば本気っぽく、商品棚の影で耳打ちしてきた。


(メイクの相談……そうだよね。お姉ちゃんは忙しいし、お母さんに訊けば絶対根掘り歯堀り訊かれるし。真湖が一番頼りになりそう)


考えて見れば、私も社会人3年目。23の大人なんだから、身だしなみとしてもちゃんとしたお化粧をしないと。おばあちゃんが口を酸っぱくして言ってたっけ。“女は外に出る時や人と会うときは必ずお化粧をするのが身だしなみで礼儀だよ”……って。


(おばあちゃん、ごめんね。ちょっと遅いけど、ちゃんとするから)


空想話が好きだった私のお話を、母方のおばあちゃんだけはニコニコしながら聞いてくれた。


“ゆうみはすごいねえ。いろんなお話が作れて。おばあちゃんはいろんな世界にいけて楽しいよ”……って。褒めて頭を撫でてくれたんだ。


「うん……もしよかったら、夕方付き合って? わ、私も……ちゃんとしたいと思うから」


約束した氷上さんがいつやって来るのかわからない以上、家にいる時以外はちゃんとメイクをしておかないと。幼いすっぴんを見られたくないし、見せたくない。


それに……


どうせ氷上さんに見られるなら、ちょっとでも可愛くいたい。きっと真湖はそんな気持ちを見抜いてるんだろうけど、敢えて触れなかった気遣いに感謝した。

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