恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】

カフー在中の手紙

前略  

きっとこれが最後の手紙になると思います。
美波たち、何度も何度も手紙を書いてきたけど、これが最後です。

ネェネェが島を出てから12年が経ったね。
ネェネェ、教えてください。
ネェネェは、どんな12年を生きて来たの?
どんな風景を見て、この12年間を過ごして来たの?
辛かった? 苦しかった? 
それとも、幸せだった?

運命とはきっとどこまでも繋がっとるんじゃないかって。
そう思うようなことばかりの12年を、美波は生きて来たんだよ。
ずっとずっとずーっと。
奇跡を願って、ただひたすらに大好きなふたりのカフーを願って、美波は生きて来ました。

止まっとった時間が動き出したのは、いま思い返すと、同封したこの1枚の写真だったと。
ネェネェとニィニィの恋を繋ぎ止めてくれたのは、美波でもオバァでもなくて、榎本潤一さんという人だったんだと。
美波にはそう思えてならんよ、ネェネェ。

それは2年前。
与那星島に初夏の青空が広がった、5月のある日の午後のことだったそうです。

あの頃からオバァは体調を崩しがちで、美波とニィニィが交代でよく島に帰っていました。
ニィニィは島へ帰ると、オバァを誘ってよく浜へ散歩に行っとったようです。
その日もいつものようにふたりで浜へ散歩へ行ったそうです。
すると、大きな荷物を背負い、首からは一眼レフのカメラを提げた男の人から声を掛けられたのだと。
もしかして須藤陽妃という方をご存じではないですか、と。
その男の人はどうしてかオバァが島のユタであることを知っとって、オバァと話すと本物に会えたと大喜びだったそうです。

そして、その男の人は名前も名乗らず、この写真を1枚ニィニィへ手渡して立ち去ったのだと聞きました。
彼女、もう10年以上も待っているそうです。大切な人と、奇跡を。
そう言って。

美波は知ってる? 陽妃さんがずっと待ってる大切な人って誰なんだろうね。とこの写真をニィニィから見せられた時は心臓が止まるかと思いました。
本当のことをニィニィに言ってしまおうかとずいぶん悩みました。
だけど、その大切な人がニィニィなんだよと真実を打ち明ける勇気が、その時の美波にはありませんでした。
その頃からです。
ニィニィに少しずつ変化が起こり始めたのは。


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