恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】
鼻をさすような不思議な薬品の匂い。


真っ暗な部屋だった。


フィルムを現像する暗室らしい。


どこにいるんだろう。


うろうろしていると、暗室の奥隣の部屋から物音がして、覗いてみる。


昨夜、あたしは飽きるほどその背中にしがみついたはずだった。


でも、明るいところで改めて見ると、感触より遥かに男の人の背中だった。


背中から腰に掛けて強靭でしなやかな線の上半身。


広い肩幅とごつごつした肩甲骨。


がっしりと張った腰骨。


日当たりのいい明るい部屋にジーンズ1枚で、上半身裸の彼がいた。


あたしはたまらず息を飲んだ。


部屋の壁一面にびっしりと張り巡らされた写真たち。


全て、息を飲まずにはいられないほど美しい建物や風景の写真だった。


「あーいいねー、これ」


榎本さんは片手にマグカップを持ち、反対の手で1枚の写真を持ち、それを窓から差し込む冬の陽射しにかざして笑った。


「やっぱ才能ありますねー、榎本先生」


独り言を言う彼に、思わず吹き出してしまいそうになる。


面白い人だ。


あたしがクスクス笑いながらその背中に「榎本先生」と声を掛けると、彼は弾かれたように振り向いた。


「起きたか、酔っ払い」
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