恋蛍~君の見ている風景~【恋蛍 side story】
行く先々は日本のように治安の良い国だけではないのだ。


むしろ日本が治安の良すぎる国だ、と潤一は口癖のように言う。


「でも、やめる気なんてないんでしょ? 写真」


「まあね。まだ行きたい国だらけだし。撮りたい風景をあげたら切りがない」


「なら弱気なこと言ってられないんじゃないの? 榎本先生」


あたしが挑発的に笑うと、潤一は珍しくいじけ口調になった。


「僕もまだまだだな。帰国早々、陽妃に渇入れられた」


潤一はいちばん大きなじゃがいもを頬張り、咀嚼し、ゆっくりとお茶を啜った。


それは、唐突だった。


「あ、そうだ。陽妃」


「今度は何?」


かしこまったわけでなければ、改まったわけでもなく。


まるで他愛もない会話の一部分のように、さらりとした口調だった。


「付き合ってください」


「へっ」


「ね」


へらっと笑う潤一に、あたしは「うん?」と首を傾げた。


この男にはタイミングとかシチュエーションとかないのだろうか。


そもそも、また冗談を言っているんじゃないだろうか。


「何それ」


「あ。もしかしてこれって振られた?」


ふざけているのか、本当にショックを受けたのか、やっぱり分からない。


潤一は「撃沈!」と心臓に手を当て、大袈裟にジェスチャーした。

< 73 / 242 >

この作品をシェア

pagetop