蝉鳴く季節に…
18
夕焼けが、空を包み始めていた。



綿飴をちぎった様な雲が、大地からサーチライトをあてられてるみたいに、半分赤く染められて流れてる。





綺麗…綺麗だけど……。




その景色は、帰らなければいけない時刻を告げられている様で…。



少しだけ、淋しくなるんだ。








「夕焼け、綺麗だな」




ベッドの上、背もたれから微かに首を上げ、ぽつりと呟いた杉山くん。


その瞳は窓の外に向けられているけれど、でも、夕焼けを通り越して遠くを見つめているみたいに見えて……。






私はふと、初めて杉山くんに会った時を思い出してた。







あの時も、杉山くんは窓の外を見つめていた。



遠くを見つめていた。




蝉を見つけて笑っていたね。







杉山くんの視線を追い、窓へと視線を移した私の背から、微かな笑い声が響いた。






「何笑ってるの?杉山くん」

「いや、思い出し笑い」

「え?何を?」

「水谷が騙された時を思い出してさ」




私が騙された時?





眉をひそめながら首を傾げた私に、杉山くんは笑いながら説明をした。
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