蝉鳴く季節に…
病院へ向かう途中、私は花屋に寄った。




色んな花が並ぶ店内。
買ったのは、ピンクのガーベラとかすみ草。

杉山くんの病室の花が、淋しそうだったのを思い出したから。


オレンジ色はかわいいけど、一本だけじゃ、やっぱり色が足りないよね。



ガーベラの花言葉は、希望と前進って本で見たのをふと思い出した。



杉山くんの病気が何だかは分からないけど、少しでも励ましになればいいな。








参考書と花を握り締め、私は病室へと向かう。




ピカピカに磨き上げられた廊下に、自分の足が写り込むのを見つめながら進んでく。


病院の床っていつもきれいなのに、滑って転ぶ人って見た事が無いなぁ…なんてふと思って、ちょっとのん気な自分に笑えた。







七〇五号室の前に着いた私は、ドアの影に隠れて、三回くらい深呼吸した。




昨日ほどじゃないけど、少しだけドキドキしてた。




心の中で、杉山くんに伝える言葉を、呪文の様に繰り返す。







先生が参考書を一冊、渡し忘れたみたいで、届けに来たの。


先生が参考書を………。






これも三回くらい繰り返して、私は気合いを入れる。

どうしてこんな事しちゃうのか、自分でもわからないんだけど……。





参考書を持つ手に力を込め、私は開いた病室のドアから、そっと顔だけを覗かせた。

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