蝉鳴く季節に…
放課後、私は病院へと向かう。


いつもの帰宅道、昨日は目一杯走り抜けた道。



熱された空気が立ち込めるアスファルトの道路。


両脇に並ぶ住宅のどこかでは、庭木に水をまく音が聞こえる。




空は高くて、街路樹に隠れているだろう蝉の声が、吸い込まれそうなくらいに澄んでいて、この空は杉山くんのいる病室の窓まで続いているんだなぁって、幸せな気持ちに包まれる。









何だろう。

いつもと同じ景色なのに、今日はなぜか新鮮に感じるんだ。










病院に着いた私は、もう慣れた足取りで病室へと歩を進めていく。



杉山くんに会える道のりを、もう身体が覚えてるんだね。










「来たな、水谷」




そろそろかと思ってたと言いながら、病室へ顔を覗かせた私を見て、杉山くんはベッドから起き上がる。







「いいよ、起きなくても」

「俺が起きたいからいいの」





杉山くんは、ゆっくりと身体を起こす。

両腕で上半身を支えながら、ゆっくりと。




何だか少し辛そうに見えたけど、それを言ってはいけない様な気がしていた。






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