年下くんの電撃求愛
……落ち着け、わたし。
膝の上に置いていたわたしの手は、いつの間にか、にぎりこぶしへと変化していた。
手のひらにぐぎぎ、と爪を食い込ませながら、わたしは自分に言い聞かせる。
……べつに、ね。裏で悪く言われてるのは、前から知ってたし。
わたしの悪口を言ってすっきりするなら、いくらでもはいてくれればいいんだよ。うん。
そりゃ、大学卒業して間もない新人のあなた方に比べたら、29歳はババアかもしれないしね。鬼がついててもべつにいいよ。いいですよ。
でも。
「ノーブヘアーの社員なんだから、社名を背負ってる自覚をもって……みたいなこと言ってきたけど、勝手に背負わせんなってかんじだよねー!!」
公共の場で、大声で社名を言うのはやめてくれないかな……!!
先ほど鬼ババアとご紹介にあずかりました。本河透子、29歳。
わたしがつとめている『ノーブヘアー』は、関東地方に拠点を持ち、全国に規模を広げている、総合毛髪企業だ。
事業内容は、主にオーダーメイドウィッグの作製。そのほかに、増毛商品の販売や、育毛サービスの提供をおこなっている。
ちなみにわたしが配属されているのは、本社ではなく、都会とも田舎ともいえない場所にある支店。
本社に比べれば、スタッフ数も、抱える顧客数も少ない。