年下くんの電撃求愛

「そ、その話はしないでくれませんかね……!?」

「いーや、あれは数ヶ月前……俺が遅れて交流会に着いたときにはもう……」

「わー!?わー!!支店長!!ちょっと!!」


頭を掴まれたまま、わたしは自身の黒歴史をなんとか封じようとあがく。


ーーそれは、支店長が切り出したように、数ヶ月前に行われた、前回の交流会でのこと。

今回と同じように『お前も参加な』と問答無用で支店長に命じられたわたしは、1人、このカラオケ居酒屋に向かった。

なぜ1人で来店することになったのかというと、支店長に本部から急遽連絡が入り、片付けなければならない業務ができたため、遅れて来ることになったからだった。

と、わざわざ説明してみたけれど、重要なのはそこじゃない。

重要なのは、開催された時期だった。時期がとても悪かった。

達彦と音信不通になり、フラれたことが確定した時期が、ちょうど会が開催された、三月だったのだ。

お酒は好きだけれど、弱いわたし。いつもなら付き合いだけのお酒をたしなみ、あとはおじさまがたの世話に回る一方なのだけれど、その日は本当に、自暴自棄になっていて。

すすめられるお酒は全部一気に飲み干し、その結果、泥酔してしまったのだ。

支店長が到着したとき、わたしはみなさまの手拍子に合わせてクロスステップを踏んでいたらしい。

……クロスステップて。もうアホとしか言いようがない。

そしてさらにおそろしいことに、わたしはその夜の記憶を、全てふっ飛ばしていた。

目覚めたら、自分の部屋だった。自分の部屋のベッドで、大の字になって寝ておりました。

本当におそろしい。29歳でそれってどうなの。自ら土に埋まりに行った方がいいんじゃないかなと思ったよ。本気で。

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