ブラックバカラをあなたへ
父の書斎を離れ、私の部屋へと2人を案内した。




数年ぶりの帰省だったが、私の部屋は、私が出ていった時のままだった。




けれど、掃除だけは徹底していて、塵も埃もなかった。




一人部屋にしては充分すぎるほどの広さがある自室には、中心に黒色のテーブルと、ソファが2つ置いてある。




その1つに2人を促す。




私はその向かいのソファに腰を下ろした。




タイミングを見計らったように、コンコンとノックの音がする。




「どうぞ」と、私が許可すると、じぃが人数分の紅茶を持って入ってきた。




じぃがテーブルに、静かに紅茶を置く。




「葉音って、本当にお嬢様だったんだね」




じぃが出て行ってから、翔平がそんなことを言った。




「お嬢様らしくなくて悪かったわね」




私の発言に翔平はクスッと笑う。




そういえば、あいつらに自己紹介した時、咲満にも似たようなこと言われたな。




私はふと、そんなことを思い出していた。




彼らが私たちの学校に転校してきたこと、2人は知っているのだろうか。




知っていても、知らなかったとしても、そのことを伝えるべきなのだろうか。




その前に、なぜ消息を絶ったのかを聞くべき?




それとも、あの日のことを謝る?




2人を前にして、私は何から話すべきなのか整理がつかなかった。




「みんな元気にしてる?」




育の可愛い目が私を捉える。




「元気、かな…」




私は、はっきりと元気とは答えられなかった。




みんないつも通り過ごしてはいるけれど、心の中ではいつも彼らのことを想っていた。




傷ついた心をいつも隠している。




泣きたいほど、死にたいほど、彼らのいない生活は苦痛だ。




けれど、そうなってしまったのは私たちの過ちなのだ。




「本当にごめんなさい…雅伊斗も、優も廻も…死なせたのは私たちのせいなの…2人にも人生を変えてしまうようなことを…本当に、本当にごめんなさいっ…」




また涙が出てきそうで、私はそれをなんとかこらえる。




「謝って許されることじゃないって分かってる…!だから、私たちを殺してもいい!2人に私たちを裁いてほしい…もう、生きてることが辛い…」




「じゃあ、一緒に死のう」




「へ?」




翔平が疲れたように笑っている。




一緒に死のう、なんて言われるとは思っていなかった。




「それはダメだよ…翔平と育が死ぬなんて、そんなの嫌…」




「僕たちも、もう生きているのは嫌なんだ。あの日、3人は死んだのに、なんで僕たちだけ生きてるんだろうってずっと思ってた。みんながいないこの世界に、どうして僕たちはまだいるんだろうって…僕も一緒に連れて行ってほしかった…」




いつもの育の笑顔はそこにはなかった。




虚しさが伝わって来て、ああ、同じだ、と思った。




私も一緒に消えたかった。




でも、まだ2人がいたから私たちは生きている。




頑張って生きようとは思うけれど、比例するように、心は疲れていく。




彼との彼らとの思い出が、優しいはずなのに刃になって、心を抉っていく。




気を抜けば泣きそうになる。




死んでしまいたくなる。




どうして私が生き残ってしまったのか。




なぜ、あんなにも綺麗だった彼ではなく私が死ななかったのか。




理不尽なこの世界を呪うことしかできない。
< 102 / 106 >

この作品をシェア

pagetop