ブラックバカラをあなたへ
数十分間、私は車の中でずっと目を瞑っていた。




風景を見る気分にも、じぃと話す気分にもなれなかった。




何も考えたくなくて。




昨日、寝られなかったからか、突然の睡魔で私は夢の中へと落ちていった。




夢は彼らに会う、もっと前の記憶を私に見せた。




『あんたのせいでっ!一生、私たちに顔を見せないで‼︎』




ごめんなさい。




ごめんなさい。




私が生きていて、ごめんなさい…




何もできなくて、ごめんなさい…




『…ごめんなさいっ』




『謝るぐらいならっ、あの子を返してよっ‼︎私の、私の子供を…っ』




ごめんなさい。




ごめんなさい。




ごめんなさい…




『ごめんなさい、』




「たくみ…」




目を覚ますと、私の頬に涙が流れた。




ごめんなさい、と繰り返す私は滑稽だ。




「お嬢様、着きましたよ」




もう、か…




涙を拭き、車を降りると、私の正面には大きな門が現れる。




表札には、庭造院の文字が。




帰ってきたんだ…




門にある監視カメラが私を認識して、ギィと重たい音をさせながら門が開く。




久しぶりに、我が家の敷地を歩く。




カツカツと靴の音が鳴る。




また現れた大きなドアの前で私は立ち止まった。




ドアノブに手をかけるが、そこから開ける勇気が出ない。




手が震える。




私はまた、父に……っ




そう、考えると今からでも引き返そうかと思ってしまう。




思い出す、あの痛み。




でも、ここで帰ったところで、それこそ父をまた怒らせる要因になってしまう。




もし、父の機嫌を損ねてしまったら…




軽く骨を折られるのでは。




「恐い…っ」




何分そうしていたんだろう。




もしかしたら、数秒だけだったのかもしれない。




早く入らないと。




そう、頭では分かっているのに、手は震えて力が入らないし、足も竦んで全く動かない。




「情けないな…」




自嘲する。




本当に、私はいつまで経っても弱いままだ。




「そんなことないですよ」




私が俯いていると、車を車庫に入れてきたのだろう、じぃが私のそばでそう言った。




「じぃ…」




「お嬢様は、とてもお強いお方です。大丈夫ですよ。旦那様はお嬢様に会わせたいお方がいるとおっしゃっていただけなので」




じぃは私のことなんでも知っている。





「じぃがついております」




私が欲しい言葉も、安心できる欲しい笑顔も。




「さぁ、参りましょう。皆様が食堂でお待ちです。美味しい料理も用意してありますよ」




そう言って、ドアノブに掛けている私の手を握って、ドアを開けた。
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