その時あの子は『独り』だった。
【一条愛side】


中学生の時、あたしはある学校に転校した。



――――教室に入って、すぐに嫌な雰囲気を肌で感じた。


一部の人達が大きな声で笑って、一部の人達が静かに過ごす。


新参者のあたしがどうこう言う筋合いはない。

それでも、言わなきゃってときが来た。




泣いてる女の子。

一人で、静かに、何かに耐えるように、声を出さず。

自分の変わり果てた机を見て、観て、視て、ミテ。


周りの生徒は見て見ぬふり。

気の毒そうに目をそらしたり、無関心を装う。


あの人たちはクスクス笑ってて――――






「こんなのおかしいよっっ!!!!」






叫んでた、いつのまにか。

でも、あたしにはそんなことできないから。

見ているだけなんて、できないから。


「なによ、なんか文句でもあるの?」

「…何も思わないの?」

「はあ?」


キッと、周りを見る。



「…あたしはここに来たばっかりだから、ここのルールとか決まりとか、知らない。
知らないし、よくわかんない。

…でも、していいことと、しちゃいけないことがあることぐらい、わかるよ。

何をしたら相手は傷つくのかも知ってる!

おかしいって言わなくちゃいけないこともっ!!」


目を丸くするクラスメイト。


「……初めの一声が怖いのも、知ってる」


立ち尽くし、あたしを見るクラスメイト一人一人と目を合わせる。


「…もし、おかしいって言ったら?

次は自分かもしれない。
そうなったとき、誰も声をあげてくれないかも。
ずっと独りかもしれない。

…そう思わないっていったら、嘘になる。


あたしだって、一人が怖い。

この教室に居ないことにされるのも怖い。

あたしの存在が、認められないのも……」


頬に熱いものが伝った。

あたしはそれを乱暴に拭う。


泣いちゃダメだ。

今、一番辛いのはあの子なんだから。


「………でも、でもさ。

それじゃあダメなんだよ」


声を出す。

いけないよ、ダメだよって伝えるために。

間違いを伝えるために。


「――――それじゃあ、誰も救われない」






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