その時あの子は『独り』だった。
【立花紀子side】


私は気が弱くて、

『いやだ』

『やめて』

が、いつも言えなかった。


だからか、よくいじめられた。


苦しかった、辛かった、悲しかった、寂しかった…。


今、私はここにいるのに、誰も私を見てくれない。

まるで自分がいないように、存在しないように感じて。


そして、変わり果てた自分の机を見て。



堪えきれずに、涙が流れた。










「こんなのおかしいよっっ!!!!」









教室に響いた声。


そのまっすぐな声は私の心にも届いた。

多分、クラスメイトにも。


私のために、声をあげてくれたのは一条愛ちゃん。

彼女は、転校生だった。


あの人たちと向き合う彼女は、クラスメイトを見る彼女は、少し震えていた。


怖いのかな…あたりまえだよね。



それなのに、声をあげてくれた。

異を唱えてくれた。

『おかしい』って言ってくれた。


それが嬉しかった。



「――――紀子ちゃん」

一度しか伝えていない、私の名前。

久しぶりに呼ばれた、私の名前。

涙は止まらない。


「…よく頑張ったね

独りで…苦しかったよね
辛かったよね、悲しかったよね、寂しかったよね」


私はほとんど意識せずに、頷いていた。


そんな私を一条愛ちゃんは、ぎゅっと抱き締める。


「――――でも、もう大丈夫だよ
もう独りじゃない

あたしがいるから」


優しく、頭を撫でられる。

母親が子供にするように。

その手はとても、温かかった。



「だから、もう…我慢しないで、声をあげて、泣いていいんだよ」

「っっ!!」


私はずっと怖かった。


私が

『いやだ』

『やめて』

って言ったら、誰かが私の代わりになってしまうんじゃないかって。


その時私は、声をあげれる?

その子を助けられる?


――――そんな自信、何処にもなかった。


私のせいで、誰かが犠牲になるのはいやだ。

だから、声を殺して泣くことしかできなかった。


「――――ありがとう」


震え混じりの、小さな、私の声は、彼女に届いただろうか。



届いていてほしい。


私のSOSに気づいてくれて、ありがとう。

声をあげてくれて、ありがとう。

皆に訴えてくれて、ありがとう。

抱き締めてくれて、ありがとう。

――――独りにしないでくれて、ありがとう。



ありがとう、あなたのおかげで――――















私は、もう、大丈夫だよ――――





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