フィンセはナンバー1



 奥の部屋に案内され、あたしは緊張した顔で部屋へ入っていった。

「坂口!久し振りだな」

 優しそうなおじさんが、嬉しそうにお父さんに声をかけた。

「三浦も久し振り!」

 お父さんも、嬉しそうに、おじさんと握手をする。


「この子が、琴音ちゃんかー」

 おじさんが、興味津々にあたしに目を向けた。

「琴音、この人はー」

 お父さんが、何か言いかけた時だった。

「琴音ちゃん。自己紹介が、まだだったねー。おじさんは、三浦新一郎と言います。昔からの、君のお父さんの親友でもある」

「……」

 三浦新一郎!?

 名前を聞いた瞬間、あたしは驚いた。


 この、おじさん、雑誌やテレビで観たことがあるー。

 確か、ホテルやレストランを幅広く経営している、大手会社の社長さんだ!

 あたしは、言葉を忘れて、唖然としてしまった。


「で、陸斗君は何処かな?」

 そんな、あたしの様子など気にもとめず、お父さんが、キョロキョロと辺りを見渡した。

「それが、陸斗は、急に出て行ったきり帰ってこないんだー」

 どうやら、息子さんの名前は陸斗君って言うらしいー。


「それは、残念だなー」
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