甘いささやきは社長室で



「桐生社長?なんです、か……」



手の甲を覆うように触れた、私の手よりひとまわり近く大きな彼の手。

それに驚き振り向くと、すぐ後ろには私を見つめる桐生社長の顔があった。



距離が近い、そう心の中でつぶやいた次の瞬間、その顔はずいっと距離を詰め私の唇に唇を重ねる。



「んっ」



突然のことに驚きと戸惑いの声を発するものの、それごと飲み込んでしまうかのように彼はキスをする。

自然とその腕は導くように私の体の向きを変えさせ、そのうちに私をエレベーターの中の角に追い込むように壁に手をついた。



なんでまた、いきなり。

そう戸惑うけれど、角度を変えて吸い付く唇に強く振り払うことができない。



薄い唇の感触と、絡められる舌。次第に唾液は混じり合い、以前彼と交わしたキスとは違う感覚で頭がいっぱいになっていく。

激しくも丁寧なそのキスは、『溶けそうなほど甘い』という表現がとてもよく似合うキスだと思った。



「……ふ……」



やがてゆっくりと離れた唇に、ふたりの息がそっと漏れた。

目の前には、のぼせたような顔をする私を映す茶色い瞳がある。



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