歪な塔の人
図書室の黄昏:3月第一土曜日

いなくなりたい

「おはよう、境本」

部屋の中は真っ白で
力業で演出された清潔感と
消毒の匂いに
拒絶されてるような気がしてくる。

境本の入院している病室だ。

境本が気絶して
普段よりずっと長い時間
覚醒しなくて、
体がだんだん冷えていくから、
自殺未遂の直後なこともあって
救急車をよんでしまった。
どうすればいいか解らず
不安なまま病院につくと
搬送されたのが
境本のかかりつけだったらしく
速やかな処置と
念のための入院に落ち着いた。

しばらくして
境本の母親がきて
俺は帰されてしまったが、
本日お見舞い二回目である。

「プリンあるよ」

「食べる」

来る途中にケーキやさんで
買ってきた二人分のプリンを
スプーンと一緒に用意して境本と
食べ始める。

「これ、お詫びのつもりなの?2日連続でプリンって芸がないよ」

「言い過ぎたなぁとは反省してるんだよ。でもプリン好きだよね?」

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