籠姫奇譚
連れられて来たのは、立派な屋敷だった。
蝶子はつい、屋敷の中をキョロキョロと見回してしまう。
「どうかしたの?」
遙に問いかけられて、蝶子はハッとする。
……人の家をじろじろ見るなんて、失礼に決まっている。蝶子は慌てて首を振った。
「……すみません。その、私はこんなに広い屋敷は初めてで。……田舎の生まれですから」
顔が熱くなる。
恥ずかしいのと申し訳ないので、頭がいっぱいだ。
「なんだ、そんなことか。気にしなくていいよ。これからは君の家でもあるし」
遙は気にせず、椅子をひいて蝶子を座らせるとお茶を運んできた。
「緊張しないで。あ、これ『紅茶』っていうんだけど、口に合うかな?」
甘い香りがするそのお茶は、よく口にする緑茶などとは違っていた。
……初めて見る。
目を丸くしている蝶子に、遙は“どうぞ”とすすめた。
おずおずと口に運ぶと、ほどよい甘味と、少しの苦味。
そして、甘い香りが口内を包んだ。
「美味しい……」
「良かった──外国のお茶なんだよ。まだあんまり出回っていないけど」
「そうなんですか。……でも、高価な物では?」
「いいんだ。もともとイスパニア出身の友人の為に買ったんだけど、『日本茶しかいらない』とか言われてね。一人じゃ飲みきれないから」