籠姫奇譚

彼は紅茶の葉が詰まった透明な硝子瓶(ガラスビン)を指差して苦笑した。


「……遙さんは、紅茶は好きですか?」


遙は、自分のことをあまり話さない。

何が好きで、何が嫌いなのかさえ、蝶子には全くわからなかった。


「好きだよ。だけど、そうだな……紅茶を皆が好きになったら、嫌いになるかもしれない」


「……え?」


つい聞き返してしまった。
その言葉の真意が、わからなくて。

蝶子の反応を楽しむように、遙は目を細めて微笑んだ。


「独占欲が強いんだ。だからね、皆が好きになったら飽きちゃうし、憎らしくなる」


棘のある言葉のわりに、遙は笑顔だった。

その笑顔に一瞬、背筋に冷たいものを感じた。


「……」


──人間に対しても、なんだろうか。

それは蝶子に対しての警告のようにも聞こえた。


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