籠姫奇譚

貞臣は返答に困った様子で言葉を詰まらせた。


「──珠喜」


「はい?」


「僕はそうなる前に、君を身請けするよ。可愛い珠喜を他の男に奪われるのは腹立たしいだろう?」


これは夢だろうか。
それとも現だろうか。

どちらでも構わない。

今、目の前の愛しい人がくれた言葉が真実ならば。


「嘘はつかないでくださいましな」


「嘘じゃないよ。──ただ、仕事の都合でなかなか楼主と掛け合えなくてね」


照れ笑いを浮かべる貞臣に愛しさが込み上げて、珠喜は彼の胸に顔を預けた。


< 61 / 94 >

この作品をシェア

pagetop