チェロ弾きの上司。
「ん、どうした?」

真木さんが固まっているあたしを不思議そうに見る。

「ほ、本番前に、何てこと言うんですかっ!」

「お前から話ふってきたんだろうが」

「…………」

「なあ、感触、思い出すだけじゃなくて、確かめるともっと効果あるんだろ?」

ゆっくりこちらに歩いてくる真木さん。

「な、何する気ですか……?」

「んー、……ハグ?」

「だ、だめですっ!」

「何でだよ」

「あたしが本番弾けなくなりますから!」

「暗譜するまで弾きこんでるんだから、ちょっとやそっとじゃ崩れない。オレのソロに協力すると思えよ」

「冗談やめてください! あたしの半年間の苦労を台無しにする気ですかっ?」

真木さんはおかしそうに笑った。

「お前もなかなか言い返すようになったじゃないか」

そう言うと、ニヤリ、と片方の口角を上げた。

やばい。サディスティックスイッチ入っちゃった!
本能で危険を察知し、後ずさる。

が、ステージ衣装はくるぶしまであるロングスカートなんだった!

カカトでスカートの裾を踏むというお約束のドジをしてしまい、よろける……
< 133 / 230 >

この作品をシェア

pagetop