チェロ弾きの上司。
その時、ドアノブが回る音がした。

響也さんはあたしを抱き締めて、素早く座った。

椅子の山に隠れて、入り口は見えない。

明かりが灯る。

「で。最近のあなたのしみったれたメンコンの釈明をきこうじゃないの」

早瀬先生の声。
ということは。

「別によくあるスランプだよ。マリだって経験あるだろ」

やっぱり、三神さん。

響也さんを見上げると、真剣な目で声がする方を見てる。

「鷹彦も私もあなたを評価するのは、あなたが人に何かを与えることができる音楽家だからよ」

「僕はそんな大層なものじゃないよ」

……そんな自嘲気味に笑う三神さん、初めて。

「馬鹿ね。ほんと馬鹿。彼女と喧嘩したくらいで落ち込んでしょぼくれた演奏するなんて、アマチュアの甘えでしかないわよ」

早瀬先生、厳しいっ!

ってか、三神さん、彼女さんと喧嘩したの? あんなに仲良さそうだったのに……。

「本番までにとりあえずその聴いてるほうが苦しくなる演奏どうにかしなさいよ。アマだろうがプロだろうが、お客さんからお金いただいて演奏するってことがどういうことか、わかってるわよね?」


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