それぞれの崩壊
そこでの会話は、診療(彼らは『診療』という言葉は使わず、『カウンセリング』と言うらしいが)というよりは、世間話のようだった。

僕の生い立ち、大学での生活、アルバイト…。様々な話を、彼は僕から引き出していった。その度に僕の口からは雪崩出るように率直な意見が繰り出された。僕の病状には一切触れず、ただ世間話をしているだけなのに、何故か鬱々とした気分が晴れていくように思えた。


「ふむ…」

突然、彼は会話を止めた。

僕は何だか切ない気分になった。もっと彼と話したい。いろいろな事をぶちまけたい。

「そろそろ良いかな」

彼はスッと立ち上がった。そして、ゆっくりとこちらを向くと、ゆったりと口を開いた。

「さて、君にはまだまだ話し足りない事があるはずだ。だが、君の悩みを解決する為の真実を君が語るには、君の記憶の扉を開ける必要がある。それは、有意識の状態では出来ない事なのだよ。」

何を言っているのか解らなかった。僕は、彼を懇願するような目で見つめた。

もっとあなたに話したい。

彼はその気持ちを受け入れるように微笑むと、全てを見透かしたように言った。

「大丈夫。思う存分話してもらうよ。ただし、これからは無意識の世界でね」

彼は軽く頷いてみせた。
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