不器用ハートにドクターのメス

適当に相槌を打って師長の苦情攻撃をやり過ごしたあと、神崎はやっと、自身の宿直室へと戻った。

今日はいろんな人間に呼び止められる日だ、と、一日を振り返って、神崎は思う。

午前中からカルテ書き換えの件で病棟スタッフに呼び止められたし、病棟の回診中にも、入院患者数人に、執拗に質問された。

何事もスムーズに流れる日もあれば、今日のように、足止めを食うことが重なる日もある。

また誰かに捕まってしまわないうちに帰ろうと、神崎は素早く、白衣から私服に着替えた。

通勤にスーツを着用するドクターもいるが、神崎はシャツにジーンズ、もしくは単品購入のスラックスという服装であることが多い。

基本、神崎はマメな方でないので、わざわざスーツをクリーニングに出しに行くことが面倒なのだ。

ブランドにもこだわらない。衣服は清潔でさえあれば、それでいい。


神崎が病院を出て駐車場に向かう時、まだ陽は沈んでおらず、外はほんのりと明るかった。

明るいうちに病院を後にできるのは、珍しいことだ。

そしてこの時間帯に帰れることになった神崎の帰路は、二通りある。

一つは、ラーメン屋を経由して帰る道で、もう一つは、コンビニを経由する道だ。

先ほどの服装の件でもそうだが、神崎は、自分自身のことにはめっぽう無頓着だ。

金にものを言わせて着飾ろうとは思わない。車だって、高級車を選んだわけでなく、運転のしがいを重視して選んだ。

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