不器用ハートにドクターのメス

少し気が抜けた瞬間、生まれたすき間に入り込んでくるかのように頭に浮かんでしまうのは、いつも神崎のことだった。


『べつにこっちだって、本気だったわけじゃない』


ため息をなんとか飲み込んで、真由美は、二週間前の出来事を思い出す。

やっと前向きになれた、大切に温めようと思えた、初めての恋。

それがたった一日で、ぺちゃんこに潰れてしまうことになるとは思いもしなかった。

いっそきちんと告白して、フラれた方がよかったのかもしれない。そんな風に、真由美は思う。

それならば、当然だと受け入れられた。

けれど、優しいと思った……好きになった神崎が偽物で、自分はからかわれていただけだったかもしれないという事実は、真由美には計り知れないショックだった。

初めて好きになった、その人間像自体がうそだったなんて。

真由美の中では、神崎は本当に優しい男だった。

押しつけがましくない優しさと、こちらの微々たる変化に気づいてくれる繊細さを持っていて、包容力がある、心の広い人間だった。

一緒に過ごしたときに見た神崎は、半端な女遊びをするような男には、とても思えなかった。

未だに信じられない。どうしても、作り物だとは思えない。


……わたしはどれだけ、あきらめが悪いんだろう。


自分を責める思いに駆られ、真由美はぎゅっと、目元をゆがめる。

ウワサだけならまだしも、本人にあれだけすっぱり、拒絶されたのに。

わたしはただひと時の、ヒマつぶしのようなものでしかなかった。もう用はないという、証明を受けたのに。

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