不器用ハートにドクターのメス
けれど、と真由美は思う。
冬の山の景色も、悪くないなぁ。昨日は少しもの寂しいなと感じていたけれど、どうしてだろう。
これから春に向けて栄養を蓄えている枯れ木の連なりが、今は、ひどく貴重で繊細で、愛おしいものに見える。
「そういやよく眠れたか、昨日」
しばらくの無言をはさんでから、神崎が落ち着いた声で尋ねてきた。
首を回して目を合わせ、真由美は答える。
「あ、はい。先生は……」
「おー。俺もあんな熟睡できたのは、久々だ」
それでもまだ寝たりないのか、ふあ、と欠伸をもらし、神崎は、少しとろみを帯びた目で真由美を見つめる。
「お前の収まり具合がちょうどいいのかもな」
「……っ!」
昨夜のいろいろなこと、そして抱きしめ合って眠ったことがぽっと頭に浮かび、真由美は不自然な動きで首を回し、視線をそらした。
顔は背けていても、赤くなった頬と耳が、真由美の照れ具合を物語っている。
がたん、ごとん、と優しい振動が、二人の体に響く。
このリズムを覚えていたいと、そんなことを思うと同時に、真由美の中に、もう旅行は終わってしまうのだなぁという寂しさが芽生え始める。
このまま電車が止まって、そして逆方向に戻ってくれたらいいのに。ありえないことを考えてみたとき、真由美ははっと、あることに気づいてしまった。
「あ……あの、ごめんなさい」
神崎の方に顔を戻し、照れの赤ではなく戸惑いの色を浮かべながら、真由美は謝罪を口にした。