不器用ハートにドクターのメス

そんな不憫な真由美のことはさておき、真由美の目の前に立つ神崎という男も、迫力という意味においては、負けず劣らずの外見をしていた。

180はゆうに越えると思われる身長。

その上部に位置する顔面には、まるで、彫刻家がヒノキにためらいなく刀を差し込み、彫り上げたような潔さがある。

短い黒髪に、強めの上がり眉。それらと同じ色をした、真っ黒な瞳。

くわえて、意志の強さを表すような、真っ直ぐに引かれた鼻筋。

荒々しい色気と、男盛りを早期に迎えたような貫禄がともに備わっている神崎は、世間一般の人々に言わせれば、ド迫力のワイルドなイケメン、といったところだろう。

そんな神崎にガン見され、真由美は焦った。

焦って、考える。どうしてまだ、先生は立ち去らずにここにいるのだろう。

なにか、わたしに用事だろうか。器械出しの出来がよっぽどひどかったから、怒られるのだろうか。

いや、その前に、自分から足手まといになってしまったことを謝るべきだろうか。いやいや、謝るのも媚びているようでおかしいだろうか。


「……お疲れ」


表面上の顔は微動だにしていないが、頭の中は超絶混乱している真由美に、神崎は一言、低い声でそうこぼした。

そしてさっときびすを返すと、立ち尽くす真由美の前から、ものすごい早さで去っていく。

その足取りは大股かつ豪快で、ばたばたとひるがえる白衣は、彼の動きに全く追いつけていない、別の生き物のようだ。

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