いつか孵る場所
「妻がいきなり失礼しました」

フレンチレストラン内にある個室で至は深々と頭を下げた。

「いえいえ」

最初は他の人と勘違いされて抱きつかれたと驚いたけれど、透からすぐに至の妻、桃子だということを告げられて何とか正気を保った。

「至さんからお話を聞いてからずっとお会いしたかったから…」

「でも、抱きつくのはダメだよ」

至がまるで子供を躾けるかのように言うのでハルは笑い転げそうになるのを必死に堪えた。

「ハルちゃんが早く義理の妹になって欲しいなあ~!って言っても、同い年だけど」

同い年に見えない童顔の桃子はひたすら自分の希望を呪文のように唱える。

「もし二人に赤ちゃんが出来たらいっぱいお洋服を買う!おもちゃも!」

目を輝かせて言う桃子はまるで子供のようだった。
至はハイハイ、と桃子を押さえるようにすると

「そんなの、透がちゃんと揃えるに決まってるよ」

桃子は少し頬を膨らませて

「こっそり買って送りつける」

透は苦笑いをして

「その時には気持ちをちゃんと頂きますよ、桃子さん」

「気持ちだけじゃなく、現物も受け取ってください、透さん」

まさか、至の妻がこんなキャラだとは思わず、とうとうハルが吹き出した。



「あ…!」


桃子の目が輝いた。

「やっと笑ってくれた~!!」

桃子は隣に座る至の腕を嬉しそうに抱きしめた。

「本当に賑やかでごめんなさい」

至がハルに謝るがハルは笑いを堪えるのに必死で

「いえ…こちらこそ笑ってしまってすみません」

ようやくハルは落ち着いて声を出すと

「でも、何だか良いですよね、ご夫婦を見ていると」

「でしょ~!!!!!」

桃子は胸を張って笑った。

「桃ちゃん、個室とはいえ声が大きいですよ」

至はとうとう桃子の口に手を当てた。
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