いつか孵る場所
「それよりも、透、父さんが僕に探りを入れてくるよ」

食事もそろそろ終わり、という時に至は切り出す。

「…直接僕に聞けば良いのにね」

淡々と語るときは透の機嫌が悪くなっている時。
今、明らかにそのモードに入っている。

「父さんに何か言う事があれば言っておくけど」

至のその言葉に透は腕を組んでしばらく考えていた。

ハルや桃子も何を言い出すのか黙って待っている。

やがて、腕組を止めて

「…じゃあ、【邪魔するならどうなるかわかってるよね?】って言っといて」

「それでわかるかなあ」

至がうーん、と唸ると

「わからなければ小児科が数年前の危機的状況に陥るって言って。いつでも出ていく覚悟はあるから。ただ…」

透はため息をつく。

「僕が担当している子達の事を思うと胸が痛い。前の病院を辞める時も身が引き裂かれそうな感じがした」

至はうんうん、と頷く。

「…まあ、こちらも打てる手は打っておくよ。桃ちゃん、明日、一緒に実家に行ってくれる?」

「イェッサー!!!」

桃子は至に向かって敬礼のポーズをする。

「まあ…桃ちゃんはこう見えてもウチの両親キラーなので、色々と手伝ってくれるから何かあれば相談してね」

至はハルに向かって言った。



− しかし…、両親キラーって… −

ハルは桃子を見て、そうは見えないけどなあって思う。

賑やかそうに振る舞っているけど細かい所作に品の良さが滲み出ている。

暴言とかも吐くタイプではなさそうだし。



「ハルちゃん、連絡先教えて!」

ボンヤリそんな事を思っていて、いきなりの桃子の言葉にビクッとした。

「桃ちゃん、もう少し大人しく!ハルちゃんがビックリするから」

至が再び注意すると桃子は黙って手を上げた。

きっと心の中で

「はーい!」

と返事しているのがわかるのでまたハルは笑ってしまった。
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