いつか孵る場所
「…本当にごめんなさい」

ハルはリビングの隅にあるソファーに横になっていた。

座っているだけで吐き気が止まらなくなる。

「気にするな」

透はハルの頭を撫でてからハルの手を握る。

冷たい。

きっと両親を前に極度に緊張していたのだろう。



「大丈夫?」

桃子が心配そうにハルを覗き込むとハルは目に涙を浮かべて頷く。

ちょうどハルが吐き気と大格闘している時に至夫妻がやって来た。

「まだ退院、早かったんじゃないか?」

とは至。

裏で父が動いて退院を早めたせいだ、と至は思っている。

とにかく早く、あの品評会みたいな親戚会議を切り抜けたいとここにいるハル以外の者はそう思っている。



リビングのテーブルでは婚姻届の証人欄に透の父、純と兄の至がサインをしていた。

「透」

書き上げると純が透の隣に行き、婚姻届を渡した。

「ありがとうございます」

透は深く頭を下げると

「明日、空けておけよ。
あの家に行く事になった」

「…はあ、ハルの状態が悪いのに行けると思う?」

透の意見はもっともだ。

これ以上ストレスを与えると流産にも繋がりかねない。

純はハルを見つめた。
ハルもオドオドしながら純を見つめる。

「ハルさん、この家に嫁ぐ以上、どうしても通らねばならん事がある。
多分、先に延ばしても、今以上に体は重くなるし、辛くなるのは想像できる。
茶番な事だが、付き合って欲しい」

純は深々とハルに頭を下げた。
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