いつか孵る場所
ナツは口をパクパクさせている。

「なっちゃん、久しぶり」

透の声を聞いた瞬間、ナツの目から涙が溢れる。

「どうして?
お姉ちゃん、どうして車椅子に乗ってるのよ?
お兄ちゃんもどうしてここにいるの?」

半パニックのナツ。

「今日はなっちゃんに報告に来たんだ」

透がナツに歩み寄る。

「なっちゃん、報告が遅くなったけど僕とハル、入籍したんだ。
お腹には赤ちゃんもいる。
ハルのつわりが酷くて、水間准教授が車椅子や点滴の手配をしてくれたからハルはあの姿に」

その瞬間、ナツは透に抱きついた。
18年前に空港で別れた光景がフラッシュバックする。

あの時のナツはまだまだ可愛らしい4歳の女の子。
今は必死に実習を頑張っている医学部医学科5年生。

「もう二度と会えないかと思った〜…」

透の腕の中でワンワン泣くナツ。

「ごめん、色々と遅くなって」

ナツは顔を上げて首を横に振る。

「本当に、結婚したんだよね?
お兄ちゃんが本当に私のお兄ちゃんになるなんて。
何だか夢見ているみたい」

その泣き顔は小さいときと全く変わっていなかった。
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