いつか孵る場所
「本当にすみません」

哲人は車椅子を借りてきてくれてそこにハルを乗せる。

「いえいえ。
透が無理をさせすぎだよ。
もう少し時期を考えなよ」

哲人は肘で透を小突く。

「わかってるんだけど、どうしても来なければいけなかったんだ」

透はゆっくり車椅子を押した。

「5年に淡路 ナツっていてると思うけど」

哲人はああ、と頷く。

「彼女のお姉さん。
なっちゃんにはまだ結婚した事を言ってないんだ」

「そうなの!?」

透は頷く。

「電話ではなく、直接伝えたいので来たんだよ。
それに、今後の事で早急に話し合わないといけない案件があるんだ」



色々話ししながらようやく研究棟までやって来た。



「失礼します」

透はハルを乗せた車椅子を押しながら部屋に入った。

「お~!!久しぶり、元気だったか?」

日下は嬉しそうに透を見つめた。

「はい、激しい当直にもめげず、何とか生きてます」

「高石の当直の入り方はこちらにいた時でも凄かったからなあ。相変わらずなんだな。
それより…初めまして」

日下は優しい笑顔をハルに投げかけた。
ハルも出来る限りの笑顔を作り、頭を下げる。
 
「初めまして」

明らかに顔色が悪いハルを見て

「顔色が良くないですね」

「つわりが酷くて…」

「点滴したほうがいいですね。いつの間にか脱水だよ、これ」

そう日下が言い終える前に哲人が点滴を持ってきた。

「これでいい?」

哲人が透に聞くと

「うん、ありがとう」

「じゃあ、お手並み拝見するか~」

日下がニヤニヤしながら言う。

「ほぼ毎日してますから大丈夫とは思いますけど」

その言葉通り、簡単に針を刺した。

「痛くない」

ハルが言うと透は微笑んで

「良かった。子供よりはうんと見えてるからね」



しばらく、近況と過去の思い出話に話を咲かせていた。

透がどんな学生だったか、ハルは目を輝かせて聞くから日下と哲人は面白がって話をしてくれた。

透は恥ずかしいやら何やらで黙っている。

夕方17時を過ぎて、ドアをノックする音が聞こえた。

「はい」

「失礼します」

入ってきたのは今日の実習を終えたナツだった。



「えっ…」

車椅子に乗って点滴をしているハルを見て、目をぱちくりさせている。

「どうして…?」

その隣を見て目を見開いた。

「えっ…え〜!?」
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