いつか孵る場所
面会時間に入ると至夫妻がやって来た。
しかも授乳時間を外してくるとは、さすがは至。
そういう配慮は嬉しかった。



「おめでとう〜!」

入ってくるなり桃子はハルに抱きつく。

「ありがとう、桃ちゃん」

ハルも桃子を抱きしめる。

「おいおい、桃ちゃん、ハルちゃんにあまり体重掛けたら駄目だよ。
まだ産んでそれほど経っていないんだから」

「大丈夫ですよ、お兄さん。
いつも色々とありがとうございます」

ハルは桃子を抱きしめたまま、微笑んだ。

その後、新生児室に行き、ガラス越しに見た二人の赤ちゃんを見て

「…赤ちゃんの時の透ソックリだ」

と至が呟く。

「そりゃ、親子だもん」

「いや、そのままかも」

と至夫妻が何やら会話をしている。

「ところでハルちゃん、名前は決めたの?」

桃子が聞くと、ハルは大きく頷いた。

「『凛』
今日みたいに寒い冬の日の空気のように、いつまでも透明感のある子でいて欲しいから」

「ひょっとして透が決めたの?」

至の問いにハルは頷く。

「なるほど、あいつらしい」

と言って微笑んだ。

「え、何が透さんらしいの?」

「よーく考えてごらんよ。
『透』って名前は透明の『透』
張り詰めた冷たい空気も透明。
自分の名前を掛けつつ、ハルちゃんの『ハル』という二文字の感じも掛けたんだと思うよ」

ハルは笑顔を見せて

「さすがは透のお兄さんですね。
正解です」

「わお〜!」

桃子は手を叩いた。



二人はしばらくいたが早々に切り上げて帰っていった。
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