ミュージック・オブ・フローズンハウス
第一章「ベートーヴェン」
 寒い朝だった。祐輔と俺は事務所の中で缶コーヒーを飲んでいた。ここ最近ほぼ毎日寒かったがその日は特別冷え込みが激しく、俺は祐輔に外回りの大変さを愚痴っていた。まぁ、確かに俺みたいな人間は室内で静かにしているよりも外で動き回るほうが性にあっているし、祐輔に話してもどうにかなる訳じゃない事くらい分かっていたが、ただ、それでも愚痴りたくなる程寒かったのだ。
「先輩は寒いのに頑張りますよね、見ました?水溜まりもカチカチに凍ってたでしょう。僕のアパートなんて、今朝は水道管が凍り付いて水すら出なかったですからね」「お前さ、一応電気屋だろ、出なかったら自分で直せよ」
「僕、事務担当なんで現場仕事は駄目ですね、と言うかそれって水道局員の仕事じゃないですか。専門外ですよ、そんなの」
どうも俺には理解出来なかった、何故祐輔があの場所で働いていたのか。頭も悪くないし人当たりもいい。多分こいつは社会的な地位をそれ程重要視していないんだろう。社会的地位を気にして気にしてここで働いている俺とは正反対だな、と思った。
「何が朝一で修理だよ、こんなに冷え込んでんだから部屋自体がすでに冷蔵庫みたいなもんだよな?」


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