リアル
その日以来、森川さんとは、一切喋らなくなった。

まともに交わされるのは、“お疲れさまです”のあいさつだけ。

目も合わない。



そう、まるで、昔に戻ってしまったようだった。

付き合っていたころの記憶も、思い出も、すべてこの世から――消されてしまったかのように。












久々にあたしの手元に戻ってきたデジカメの写真を開いてみた。


大学祭の、みんなの笑顔。

メイド服の集合写真や、打ち上げでべろべろになってるみんなとの姿。




そのあとは――真っ白な犬のドアップの写真が続いた。

森川さんと付き合って、最初で最後になってしまったドライブデートの写真。

あたしがシロを撫でてる写真や、森川さんとシロが追いかけっこをしてる姿。


そこであたしは、森川さんとあたしのふたりの写真が、一枚も無いことに気がついた。

シロの可愛い右足じゃあ……シャッターボタンは押せないから。



何の形も残さなかったふたりの関係は――

あたしと、森川さんと……シロの、三人だけの秘密だった。








< 144 / 254 >

この作品をシェア

pagetop