リアル
あの時、森川さんはいつから――あたしの後ろにいたんだろう。

まさか……あたしが泣いてたの、気づいてたのかな。


自転車のペダルをこぐことさえも、まともに出来ないくらい、あたしの頭の中は森川さんでいっぱいになっていた。


彼のあの、あたしを見る瞳が忘れられない。

まるで、あたしを哀れんでいるかのような目。

――どういうつもりで、あたしに声なんかかけたんだろう。



夕方の空気は徐々にひんやりとしてきていて、もうすぐそばまで秋が来ていることを教えてくれた。

日が落ちるのも、ずいぶん早くなってきている。

空にはうっすらと月が浮かび始め、早く帰らないと、明日までに洗濯物が乾かなくなってしまうことに気がついた。


あのタオル――やっぱりきっと、森川さんのに違いない。

すぐ洗って、明日には返さなきゃ。


タオルの柔らかなぬくもりで、森川さんという人に、少しだけ触れられた気がしたけれど、

でも……なんでも見透かされてしまいそうなあの目は――どうしても苦手だ。




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