リアル
「え、森川さん……彼女いるんすか!?」


そんなことには全く気づいてない様子で、高橋さんが森川さんのほうを振り返る。


「……いや、別に」


一方の森川さんも、ちらりとあたしの方を見た後――

その静かな瞳で、プレハブの部室を出て行こうとするカイ先輩の背中をにらみつけていた。


「オンナには困ってないんじゃねぇの？……森川は」


その異様な雰囲気を、あたしは固唾を飲んで見守っていた。

今までに、この場所では経験したことのない――はりつめた空気。


「……コンビニ行ってくる」


カイ先輩が部室のドアを開けた瞬間、ようやくその緊張から解き放たれた。


「あ、おれも一緒行っていいっすか？」


相変わらず高橋さんだけが、呑気な声をあげてカイ先輩の後を追いかけていった。


残されたあたしは、先ほどの緊張した空気の意味を――理解できずにいた。

ソファで車の雑誌を開いている森川さんと目が合う。


彼はなにかを言いかけて――思いとどまったように、その目をあたしからそらした。




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表紙・目次

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