リアル
ふわり、と、上体が浮いて――息が出来なくなった。


あたしの肩の後ろで、苦しげな息遣いが聞こえ、

そこであたしはようやく、自分が森川さんの腕の中にいることに気がついた。


後ろからきつく抱きしめられて、頭がくらくらするほどの香りに包まれた。

香水のほのかなラストノートと共に――あたしが今までに感じたことのない、熱のこもった、男の、香り。


でもなぜか、その腕を振り払う気にはなれなかった。





「もう……やめてしまえばいい」


彼はあたしの首筋に顔をうずめたまま、苦しそうにつぶやいた。


「そんなに――カイさんがいいか？」


その言葉に、両の瞳からなみだがあふれ、頬を伝い、森川さんの手の甲にぽたりとしみた。

あたしを抱く腕にますます力がこめられて、あたしは心臓をわしづかみにされたようになった。


全身が震えて、心が苦しくてたまらない。





どうすればいいのか、今のあたしにはわからなかった。

今はただ、この腕に抱かれて――なにも考えずに泣いてしまいたかった。







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