SECRET COCKTAIL
チリン。
来客を告げるベルの音が鳴ったというのに。
カウンターの中にいるその人は、チラリとも視線を寄越さない。
大方この時間に誰が来たのか、よく分かっているからだろう。
それでも、そんな姿をみて満足気な笑みを浮かべてしまうのは。
例え迷惑がられていたとしても。
自分を認識して貰えているという、歪んだ自己満足があるからだ。
どんな形であれ。
彼に自分の存在を意識してもらえるのなら、それでいい。
そんな前向きな思考を抱きながら、いつものカウンターのスツールに腰かける。
「また、来たのかよ」
ほら。
と、思わず頬が緩む。
目の前の彼は。
やはり視線を上げもしないのに。
こうしてここにいるのが誰か、分かってくれているのだから。