強引な彼の求愛宣言!
掛け布団を握りしめたまま、ぐるりとまわりを見渡してみる。

私がいるのはセミダブルサイズのベッドの上で、ここはどうやら寝室らしい。

……誰の、って。さっきの様子だと武藤さんの家のだよね。どう考えても。

昨晩、松岡さんにいきなり呼び出されてそこにいた武藤さんとも楽しく飲んで、最後は武藤さんと一緒にタクシーに乗ったことは覚えている。

あのとき私、すっごく眠くて。もしかして、タクシーで寝ちゃった私が起きなかったもんだから、仕方なく自分の家に運んでくれたとか?

ああ、そうだ、きっとそう。私、1度寝たらなかなか起きないし。武藤さんはやさしいから、ぐーすか寝ている私をそのままほっぽり出すこともできなかったんだろう。


落ちついて考えてみたら、すごく簡単なことだ。なんとか動揺をおさえこむことに成功した私は、はーっとため息を吐く。

手ぐしで髪を整えながら、ゆっくり布団を出てベッドから足をおろした。


……うん、私、ちゃんと昨日のワンピース着てるし。

相手はあのザ・紳士な武藤さんだ。不可抗力ながら一晩同じ家にいたからといって、不埒な展開になっているはずがない。

とかなんとか思いつつ、足元が昨晩履いていたはずのレギンスではなく生足になっていたことにギクリとする。

そしてすぐ、ベッドの下に自分のバッグと畳まれたレギンスが並べてあるのを見つけた。

……えっと。たぶん、私が自分で脱いだんでしょ……うん、そう。きっとそう。


少し迷った末、レギンスはそのままバッグの中につっこんで。

そこから入れ替わりに、コンパクトミラーを取り出した。



「(……うん、まあ、そこまでひどい顔ではない、かな)」



もともと、崩れようのないナチュラルすぎるメイクだったことが功を奏したようだ。そもそもそれが問題なんだけど、この場合は結果オーライというやつ。

……そういえばさっき、武藤さんに頭くしゃってされたよね。

驚きすぎてときめくヒマもなかったけど、今さらながら、あれって──。
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