オタク女子。
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「いい子じゃないの」
「まあな」
さつきがお手洗いに客間から出た後、ひかるは紅茶をテーブルにセットしながら受け答えた。すると佐智子が何か含みのある声で、
「しっかりつかんで離さないことね。好きなんでしょ?」
と言った。思わずその手を止めて母をまじまじと見返す。
何もかもお見通しって訳か?一体なにを言ったんださつき……。
「あら、さつきさんのせいじゃないわよ。二人の距離感がまだ恋人って感じじゃなかったから。母を騙すなんて百年早いわね」
ひかるは黙った。佐智子は続ける。
「私のことは心配しなくていいからね」
「え、」
「大丈夫。 私前から老人ホーム入ってみたかったの。いい機会だからそっちに移ろうと思って」
だから私の介護のことは気にしないでと母が微笑んだ。貴方が気を使う必要はない、と。佐智子が倒れて下半身に麻痺が残ったとき、ひかるはさつきを諦めた。
自分は仕事をしたい。
するとどうしても妻は家庭に入れる人になってくる。さつきは常に仕事は続けたいと言っていた。無理だ、と思った。