恋の後味はとびきり甘く
 涼介くんがぺこりと頭を下げて背を向け、そのまま出ていっていまった。ひとり残された店内は、気温が下がったようにさえ感じる。

 なかったことにしてもらえませんかって……いったいなにをなかったことにしてほしいの?

 今日のトリュフの出来のこと? 彼を抱きしめたこと? 彼に抱きしめられたこと? それとも……これまでのことすべて……?

 ふとテーブルの上を見たら、砂時計の砂がとっくにすべて落ちていた。

「いけない、紅茶が……」

 急いでティーポットを傾けたら、案の定、白いティーカップに苦そうな濃い茶色の液体が注がれた。あーあ、失敗だ。

 私は椅子にドサッと腰を下ろした。テーブルに両肘をついて、手で額を押さえる。

 涼介くんの気持ちがわからないよ……。

 そっと口に含んだ紅茶は、やっぱり渋くて苦くて、とても飲めたものじゃなかった。
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