恋の後味はとびきり甘く
 彼が私の頬に頬をすり寄せてくるので、柔らかな髪が耳もとに触れてくすぐったい。身をよじったら、逃げようとしたと思われたのか、彼の腕に力がこもった。

「りょ……涼介くん」
「鈴音さん、背中が怒ってました」
「お、怒ってなんか……っ」
「ホントですか?」

 彼に訊かれて言葉に詰まる。

「べ、別に腕を組んだくらいじゃ。だって、私、大人だし」
「俺は嫌です」
「え?」

 涼介くんが私の肩に顔をうずめ、低い声で言う。

「俺は、鈴音さんがほかの男と腕を組んだら嫌だ」

 彼の言葉を聞いたとたん、どうしようもなく胸がむずむずしてきて、私は胸の前の彼の腕にそっと両手をのせた。

「ホントに?」
「はい」

 私は大きく息を吐き出した。

「昨日……なかったことにしてって言われて、今日あんなふうにほかの女の子と仲のいいところを見せられて……私、すごく不安だったんです」
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